偽りの仮面 第6話


「スザクさん、お兄様の事でお願いがあるのです」

クラブハウスで再会を果たしたあの日、ルルーシュがお茶のお代わりを用意しに下がった時に、ナナリーはスザクに言った。

「なに、ナナリー」

ルルーシュのことでお願い?ここで暮らす上で何か問題でも?それとも学校関係?もしかしていじめられているとか!?僕達はもう17歳だ、いじめの内容だって・・・嫌な想像を振り払い、スザクはできるだけ明るい笑顔で尋ねた。

「今は・・・あの、学園に通う事になったんですよね?今度、お兄様のいないときにお会い出来ないですか?」

ルルーシュが戻ってこないかしきりに気にしているため、聞かれては困る内容なのだろう。ナナリーの縋るような必死の訴えに、スザクは解ったと了承を示した。
ルルーシュ不在の日に訪れたスザクは、クラブハウスへやってきた。「僕たち、他人でいよう」という言葉を耳にし、ルルーシュとスザクの関係を疑っている咲世子も交えた場を用意できたのは、ナリタ戦の後の事だった。

「咲世子さん、ゼロをどう思っていますか?」
「ゼロを・・・でございますか」

それは、難しい質問だった。
はっきりというなら、支持者だ。だが、咲世子をイレブンではなく、日本人として接してくれているランペルージ兄妹にそれを告げる訳にはいかない。何より、一緒に今いるのはブリタニアの軍人となった少年だ。もしかしてこれは、ゼロの支持者をあぶり出すブリタニア軍の作戦なのでは?と考え始めた時、ナナリーは再び口を開いた。

「スザクさんはゼロをどう思いますか?」
「僕を助けてくれたことは感謝しているけれど、彼のやり方は間違っている」

スザクはきっぱりと言い切った。

「どう間違っているのですか」
「テロは犯罪だよ。もし国をよいものへと変えたい、犯罪を無くしたいと本当に思っているのなら、警察や軍に入って内側から変えるべきだ」
「内側からの改革など、不可能だと解った上で言っておられるのですか?」

断言された言葉に、スザクはわずかに眉を寄せた。
同意してもらえるとは思っていない。
でも、ナナリーに否定されるとは思わなかった。

「不可能かどうか、やってみなければわからない」
「やらなくても解ります。それは、不可能なのです。そのような尊い志を胸に警察あるいは軍という組織に入ったとしても、体制に取り込まれるだけです。内側から変えるということは、現在のやり方を、ブリタニアの思想を否定するということですね?ですがブリタニアの思考に反する行動を取れば、地位を上げることもできず、日陰の身のまま終わってしまいます。それを承知の上で言っておられるのですか 」

上官は、ブリタニア軍人だ。
幸い現在の上司はロイドとセシルで、二人は人種の違いは一切気にしないが、以前までの上官達は、そんな変わり者ではなかった。選民意識が強く、イレブンは黄色い猿だから人間ではないと考えているものが殆だ。そんな上官のいる場所で内側からの改革など出来るはずがない。もしやろうとすれば、間違いなく・・・・。

「・・・そでも、絶対に無理とはいえない。例外は起こりえるんだ」

そう、不可能ではないのだ。
現に自分は上司に恵まれ、KMFにも騎乗できるのだから。
ナンバーズは騎乗不可と言われていたKMFに。

「スザクさんの驚異的な身体能力が、誰も乗りこなせない機体とたまたま相性が良かっただけです。他の日本人の方が、スザクさんのように軍に入り、KMFに騎乗したいと思っても、それは叶う事でしょうか?」
「・・・それは・・・」

名誉ブリタニア人は武器の所持さえ、最初は許されない。
KMFの騎乗資格だってない。
スザクが騎乗できるのは、第2皇子肝いり部隊のパイロットになれる人材がブリタニア人の中には見つからなかったからだ。何より人種に頓着しない、数値だけに興味がある人物がトップにいたから選ばれたのだ。これはスザクにだけ適用されるもので、今後同じ立場の者が出てくるかといわれれば、不可能だと言えるだろう。

「そうです、不可能なのです。スザクさんは、万に一つという奇跡を手にしただけ。その奇跡を、万人に求めてはいけません。皇帝や皇族、あるいは上位の貴族ならまだしも、一般人が国を変えるなど夢物語でしかありません」
「夢でも、目指す価値はある」
「ならば、ゼロが外からの改革を行うのもまた、目指す価値があるのでは?」
「それとこれとは」
「同じではありませんか?いえ、ゼロの方がより現実的です。弱肉強食が国是のブリタニアの内部改革を行える血筋に生まれなかったのであれば、ブリタニアそのものを破壊する以外に手などありません」
「そのために、どれだけの被害が出るか解っているのか?」

スザクは、それまでの穏やかな表情を一変させ、鬼や悪鬼と言っていいほどの険しい表情で言った。声もそれにふさわしく、先程よりも低くなっていた。

「スザクさんこそ、今この時にも、どれだけの被害が出ているか解りますか?ブリタニアが侵攻を続ける以上、被害は広がり続けるのです」

今この時にも、戦争は続いている。
どこかの国がブリタニアの攻め込まれ、名を自由を奪われ、番号を振られようとしているのだ。ブリタニアが戦争をやめない限り、多くの戦死者が出る。そして、属国となれば、ナンバーズは迫害を受け、更に被害は増えていく。

「時間と共に被害は広がり続けるのです。もしかしたら、ゼロが動く事でその被害は減る可能性もあります」
「テロを肯定するのかナナリー」
「ゼロをテロリストと呼ぶのは、それだけスザクさんがブリタニアの思考に囚われていると言う事です。日本人の考え方ではありません」

日本人ではない。
ナナリーにそう言われたような気がして、スザクはギリッと奥歯をならした。
売国奴、ブリタニアの犬。
名誉となり軍属になったものに対し、日本人は冷たい視線を向けてくる。
日本人としての心を捨てた裏切り者だと指を差される。

「・・・そんな事は、ない」

落ち着け、相手はナナリーだ。
ここまで腹が立つのは、被害妄想が強くなっているからだ。
そう考え、できるだけ気持ちを落ち着かせる。

「もし、スザクさんが日本人の側にいたなら、ゼロをテロリストとは呼びません」
「じゃあ何だと言うんだ」
「レジスタンスです」
「!?」
「祖国を取り戻すため、自由と解放を求めてブリタニア軍と戦う者たちはテロリストではありません、レジスタンスです」
「言い方を変えた所で!」
「テロリストとレジスタンスは別物です。ゼロは市民に、非武装の者に危害を加えますか?逆ですよね?武器を持たない者たちを守るのがゼロではありませんか?彼らが敵としているのはブリタニア軍、そして、日本を、世界を侵略しているブリタニアという国ではありませんか?」

祖国を取り戻すための戦いをテロとは呼びません。
ナナリーの言葉に、スザクは反論することができなかった。

****

ナナリーの情報源・・・。(考えてない)
ルルーシュですら知らないスザクのKMF騎乗を知ってるよこの子。
スザク華麗にスルーしてるけど、ナナリートンデモ発言してるんだよ。
と、突っ込まれる前に自己申告。

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